■特徴・分布・生育環境
      一般に「野バラ」と呼ばれるのは、山野に普通に自生するバラ科バラ属の仲間です。「ノバラ」の名は総称で、ノバラの名を持つものはありません。
      
      後述のように、多摩丘陵に普通に見られるのは「ノイバラ」、「オオフジイバラ」と「テリハノイバラ」です。「モリイバラ」や「フジイバラ」は少し標高の高い山地に分布します。「ミヤコイバラ」、「ヤブイバラ」や「ヤマイバラ」は中部あるいは近畿以西に分布します。
      これらは、花や葉あるいは樹形などがよく似ています。多くの場合、葉柄の基部につく小さな葉状の托葉が見分けるポイントのひとつになります。
      
      落葉低木で高さ2mほどになります。幹は普通直立しますが、他の植物などに寄りかかる場合もあります。茎にはやや鉤(かぎ)状に湾曲した鋭いトゲが対になってついています。
      
    花は初夏に咲き、枝先に円錐塔状の花序(円錐花序)を出して、ややまばらに花をつけます。花は径2〜3cmほど、花弁は5枚で白色です。
      果実は径8mmほどの偏球状で、秋に赤く熟します。
      
      葉は長さ7cm前後の奇数羽状複葉(葉軸の左右に小葉が並び軸頂に1枚つく)で、小葉は2〜3対です。葉の表面にはやや光沢があります。小葉は葉先が三角形状の長さ3cm前後の長楕円形で鋭い鋸歯(葉の縁のギザギザ)があります。頂小葉は卵状楕円形で側小葉よりも大きい。
      托葉(葉柄の基部の両側につく小さな葉状の部分)は、淡緑色から帯赤色まで変異はありますが、托葉の先がやや細くなりその先が糸状に伸びていて、人が万歳したような形になっているのが特徴です。
      
      本州(宮城県以南から愛知県)に分布します。海外での分布は不明です。
      多摩丘陵では、日当たりのよい林縁などに時々見られますが、個体数は多くありません。
      
      ■名前の由来
      この仲間の古名は「宇波良(うばら)」で、「茨(いばら)」はトゲのある木を総称する言葉のようです。古名から転訛して「バラ」となったという説があります。オオフジイバラの名は、富士山周辺に多いフジイバラよりも花がやや大きいことから「大富士」と命名されたようです。
      「薔薇(そうび)」は漢名です。平安時代には、この漢名も使われていたようです。現代ではバラを「薔薇」としています。
      
      ■文化的背景・利用
      オオフジイバラとしては、知られた詩歌や本草書などには現れていないようです。仲間(同属)の「ノイバラ」は以下のように現れています。
      
      平安時代の「倭名類聚抄」の「薔薇」に古名「営実(ノイバラの果実のことです)」は「和名 無波良乃美(むばらのみ)」という記載があります。「本草和名」にも同様に現れています。
      
      万葉集の2首で詠われている「うまら(荊)」は、ノイバラであるとされています。
      「古今集」に「さうび」と題して「我はけさ うひにぞみつる 花の色を あだなるものと いふべかりけり」 紀貫之があります。「我はけさ うひにぞみつる・・・」と「さうひ」が詠み込まれています。
      
      江戸時代の「本草綱目啓蒙」に「営実」として「ノイバラ」や「野薔薇」などの名で現れています。また、貝原益軒による「大和本草」などにもその名が現れています。
      江戸時代の蕪村の句にいくつか詠われています。「花いばら 故郷の路に 似たるかな」や「愁ひつゝ 岡にのぼれば 花いばら」などがあります。これらの句の「花いばら」にはオオフジイバラが含めれていた可能性があります。
      
      ■食・毒・薬
      ノイバラの果実は薬用になりますが、オオフジイバラの果実は通常薬用にはしないようです。ただし、ノイバラの果実は作用が激しいので民間での使用は避けるべきです。完熟前の果実を天日干ししたものが生薬「営実(えいじつ)」で専門家が下剤などに用います。
      
      ■似たものとの区別・見分け方
      〇ノイバラでは、花穂に多くの花をつけますが、これだけでは確信は持てません。托葉(葉柄の基部の両側につく小さな葉状の部分)が細かく深く裂れ込んでいて、細い糸状になったクシの歯状であるのが特徴です。
      
      〇オオフジイバラでは、葉の表面にやや光沢がありますが、テリハノイバラにも同様に光沢があるので、葉の光沢だけで確信を持つのは困難です。オオフジイバラの托葉(葉柄の基部の両側につく小さな葉状の部分)は、淡緑色から帯赤色まで変異はありますが、托葉の先がやや細くなりその先が糸状に伸びていて、人が万歳したような形になっているのが特徴です。
      
      〇テリハノイバラでは、葉の表面に明瞭な光沢がありますが、オオフジイバラにも同様にやや光沢があるので、葉の光沢だけで確信を持つのは困難です。テリハノイバラの托葉(葉柄の基部の両側につく小さな葉状の部分)は、淡緑色で先が三角形状のほぼ長方形なのが特徴です。また、テリハノイバラでは茎は立ち上がらずにツル状に伸びていて伏していることがほとんどなのも特徴です。
      
      〇モリイバラやフジイバラは、やや標高の高い場所に自生していて、多摩丘陵には自生はないようです。モリイバラでは、棘が真っ直ぐで長く、葉裏が白っぽいのが特徴です。フジイバラでは、他とは異なり頂小葉の大きさが側小葉と同じ大きさであるのが特徴です。
      〇ミヤコイバラ、ヤブイバラやヤマイバラは中部あるいは近畿以西に分布します。
      
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     写真は「花」、「花と葉」、「托葉」と「果実」 の4枚を掲載 |  
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     | オオフジイバラの花 |  
      
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     | オオフジイバラの花と葉b> |  
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     | オオフジイバラの托葉 |  
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     | オオフジイバラの果実 |  
     
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