■特徴・分布・生育環境
      丈の低いまばらな草地〜半裸地に自生する多年草です。
      春では草姿はやや小型ですが、初秋〜秋には草姿は倍近く大きくなります。
      
      春には、花や葉などの草姿はタンポポの仲間にやや似ています。
      初秋〜秋には、明らかな花はつけず(開花しない閉鎖花のみ)、葉も2倍ほど大きくなります。
      すなわち、春と秋の二つの型がある草本です。
      
      〇春早く(〜初夏)
      
      春早い時期(3月末〜4月初)に地表に新芽を出して新葉を広げ始め、1週間ほどで放射状に広げていく葉(ロゼット状)の中心から花茎を立てます。
      茎を分けずに高さ10cmほどの茎頂に1個の花をつけます。
      
      開花する頃には、放射円形状のロゼット葉は全体で径6cmほどで、葉身(頭裂片)は2cm強です。
      
      花はキク型で、中心に10数個ほどの小さな管状花、周囲に普通は8〜10枚ほどの舌状花(花被片)があります。舌状花(花被片)の数はもっと少ないこともあります。
      花径は1cm〜1.5cmほどです。
      
      舌状花(花被片)は、白色(〜淡紫色)です。ただ、舌状花(花被片)の裏側は普通は淡紫色です。したがって、開花直前の半開の時期には花被片の裏が目立つので淡紫色に見えるのが普通です。
      舌状花(花被片)は、綺麗な放射状には並ばずにバラつくことが多い。
      
      花茎には毛が多い。また、花茎には微細な鱗片葉がいくつかあるのが普通ですが茎に密着しているので見た目では無いように見えることもある。
      
      舌状花は、他のキク科の舌状花とは異なり内側にもごく小さな線状の花被片があります。
      外側の花弁状の舌状花との間にオシベがあります。内側の微細な線状の花被片の先は二つに分かれています。
      この舌状花の形態を2唇形と言います。ただ微細な部位なので確認は結構難しい。
      
      春の花は結実しないことが多いようですが、確認できていません。
      初夏に、淡褐色の針状の果実(種子)を密な放射球形につけていることがありますが、中身は確認できませんでした。
      不稔である可能性があります。
      
      〇(晩夏〜)初秋〜秋
      
      春の花後も葉は成長し、長さ10cmほど、幅5cmほどになります。
      
      初秋(時に晩夏)〜秋に、春と同様に再度茎を立てて、蕾のような花穂をひとつつけます。多摩丘陵では、8月に入る頃からです。
      1本〜数本の茎を、地際に放射状に広げた葉の中心から立てます。
      
      この蕾のような花穂は開花することはありません。
      このまま結実します。「閉鎖花」です。
      
      熟すと淡褐色で針のように細い果実(種子)を放射球形に広げます。
      
      〇葉の形態
      
    葉は、羽状に中裂(〜深裂)しますが、頭裂片が大きく基部の裂片はかなり小さい。また、時に基部側の裂片がほぼ無いか全く目立たないこともあり、その場合には葉柄が長く見えます。 
      葉の表面には光沢(艶)があります。
      
      葉は、見た目では角ばって見えます。頭裂片の葉縁は大まかにごく浅く波打つようになります。
      
      葉は地表に沿って広がり立ち上がりません。
      葉長は、秋にかけて継続して大きくなっていきます。
      春の花期の当初には長さ2cm前後(巾も2cmほど)で初夏を迎える頃には長さ5cm(巾3cmほど)前後になります。
      初秋には、葉は長さ10cmほど、幅5cmほどになります。
      
      日本全国〜東アジアに分布します。
      多摩丘陵では、2016年現在では自生は稀です。ごく限られた保全区域で見かけるだけになっています。
      恐らく半裸地や丈の低い草がまばらに生えているといった場所が少ないことからだと考えられます。
      
      ■名前の由来
      初秋〜秋に、槍の先のような閉鎖花を立てる様子を「槍:やり」にみたてたものというのが一般的です。「千本」は、数本の閉鎖花を立てる様子を比喩的に表しているようです。
      別名の「ムラサキタンポポ」は、草姿がタンポポに似ていて、花が淡紫色を帯びることからです。
      
      江戸時代の本草書「本草綱目啓蒙」に、タンポポの漢字名に関して「ムラサキタンポポ」や「センボンヤリ」などの名が現れているとされるので、江戸時代にはこれらの呼び名があったようです。
      
      ■文化的背景・利用
      知られた詩歌や文芸などにはその名は現れていないようです。
      上述の通り、江戸時代の小野蘭山による「本草綱目啓蒙」にムラサキタンポポやセンボンヤリ、あるいは「ヤリ・・・」といった呼び名が現れているとされます。
      
      ■食・毒・薬
      センボンヤリが有毒であるという報告はないようです。
      しかし、中国では薬用にするという説もあるようなので、食用にするのは避けるべきです。
      日本では、薬用には利用しないようです。
      
      ■似たものとの区別・見分け方
      多摩丘陵には、直接的に似ているものはありません。
      草姿はタンポポの仲間に似ていますが、花だけを見ると野菊の仲間のシラヤマギクにもどことなく似ています。
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     写真は、「花」、「花被片が帯紫色の個体」、 「花被片の裏(帯紫色)」、「全体」、 「葉の表面(光沢がある)」、「閉鎖花(初秋〜秋)」 と「熟した果実」の7枚を掲載 |  
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     | センボンヤリの花 |  
      
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     | 紫色を帯びた花被片の個体 |  
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     | 花被片の裏(帯紫色) |  
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     | センボンヤリの全体 |  
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     | 葉の表面(光沢がある) |  
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     | 閉鎖花(初秋〜秋) |  
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     | 熟した果実 |  
     
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