■特徴・分布・生育環境
      この仲間(テンナンショウ属)は30種余りもあり、また一部を除き、変異が多く中間的な形質を示すものもあるため、区別が困難な種類です。
      ただ、このムサシアブミは、下記のように花の形態で比較的容易に区別できます。また、葉がやや大型の三出複葉(3枚の小葉からなる葉)であることも見分ける目安になります。
      
    草丈20cm〜50cmほどの多年草で、草丈や葉の大きさには大小があります。イモ状の地下茎は有毒です。ただ、全草が有毒であるとされることが普通です。
      やや湿性のある林床や谷筋に生育します。
      
      春に、2枚の葉と中央に1個の花茎を出します。
      
      花は長さ5〜10cmほどで、1個の仏炎苞に包まれた特異な形態の花をつけます。「仏炎苞」は、有名なミズバショウと同じく、小さな花を周囲に密生させた棒状の花穂(肉穂花序)を苞葉が包みこんでいるもので、仏像の後背の仏炎に似ているためこのように呼ばれます。
      このムサシアブミでは、仏炎苞が下方に強く巻き込んでいて丸まって見え、中の白っぽい肉穂花序は見えません。仏炎苞の両脇は横に張り出し、先端は最初は小さく前方に突き出ていますが、間もなく萎れて枯れます。
      仏炎苞は、暗紫色〜緑白色と変異があり、白条(スジ)がやや密に入ります。
      花は、茎の基部につき、葉よりもかなり下方に位置します。
      
      葉は、通常茎に2枚つき、比較的大型で、長い葉柄の先に幅10〜30cmほど、長さ15〜35cmほどの3枚の小葉からなる葉(三出複葉)をつけます。小葉はかなり幅の広い卵型状で、葉先は小さく鋭三角形状になります。
      
      雌雄異株ですが、栄養状態がよいと雌株に性転換するという変わった性質を持っています。
      雄株では、訪花昆虫を外に出して雌株への受粉を円滑にするために、仏炎苞の基部に穴が空いていて訪花昆虫が逃げ出せるようになっています。
      
      本州の関東地方以西〜朝鮮半島・中国大陸に分布します。「むさし(武蔵)」(関東中南部の埼玉県・東京都・神奈川県あたり)の名はありますが、関東地方での自生は少ないようです。
      多摩丘陵には自生はないようです。時に、人により持ち込まれた個体や植栽されていたものが逸出したと思われる個体が見られます。
         
      ■名前の由来
      花の形態が、馬具の「鐙(あぶみ)」(馬の背から両側に吊り下げて足先を差しこむように乗せる半円形の馬具)に似ているという命名です。古代〜平安時代に上述の「武蔵の国」の特産品として作られていたことから「むさし(武蔵)」とされたというのが一般的です。
      また、「武蔵鐙(むさしあぶみ)」の言葉自体は、平安時代の初期に成立していたとされる「伊勢物語」に既に現れているとされています。ただし、恋文に記されていて、「鐙」のどちら側を踏んだらよいかに思いまどう(京の都の女性か今居る武蔵の国の女性を選ぶべきか迷う)の意味で使われているようです。
      その当時から「武蔵の国」の「鐙」はよく知られていたようです。ただし、植物名とは無関係です。
      
      ■文化的背景・利用
      上述の通り、平安時代初期には成立していたとされる「伊勢物語」に、「武蔵鐙」の言葉が現れているとされていますが、これは上述の通り植物名とは無関係です。
      平安時代の本草書である「和名類聚鈔」や「本草和名」に既にその名が現れているようです。
      江戸時代の本草書などにもその名が現れているようです。
      
      ■食・毒・薬
      全草有毒と考えるべきです。特に、地下の偏球形の地下茎や赤く熟す果実は毒性が強い。誤って食べると、口内の痛みや腫れ、胃腸障害などを惹き起します。ただし、毒抜きすれば食用にできるとされますが、一般にはとても危険です。
      
      秋に、この仲間の根茎を採取し、輪切りなどにして乾燥させたものを生薬「生南星(しょうなんしょう)」と呼ぶとされ、去淡などに効能があるとされています。
      
      ■似たものとの区別・見分け方
      〇草姿が似たマムシグサでは、仏炎苞の口辺部は僅かに張り出しているだけです。また、葉は鳥足状につく小葉からなるので、ムサシアブミの3出複葉とは大きく異なります。
      ただ、マムシグサには変異が多く、ムラサキマムシグサ、アオマムシグサ、オオマムシグサ、カントウマムシグサ、コウライテンナンショウやホソバテンナンショウなどに分類する考え方もありますが、中間的な形質を示すものが多くて区別するのは困難です。
      
      〇ウラシマソウでは、仏炎苞から長さ70cmにも及ぶ細いムチのような付属体を肉穂花序の先端から伸ばしているので容易に区別できます。
      
      〇ミミガタテンナンショウでは、仏炎苞の開口部の下端が横に大きくせり出していて耳のように見えます。
      
      〇このムサシアブミでは仏炎苞が袋状に強く巻きこんでいて縁の両側が横に張り出しているという特異な形態をしています。また、マムシグサ、ウラシマソウやミミガタテンナンショウとは大きく異なり、葉が三出複葉です。
      
      〇ユキモチソウでは、仏炎苞がほぼ垂直に跳ね上がっていて、仏炎苞の開口部と花序の球状の先端(付属体)が純白なので、容易に区別できます。
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     写真は「花(1)」、「花(2)」、「葉」と「全体」 の4枚を掲載 |  
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     | ムサシアブミの花(1) |  
      
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     | ムサシアブミの花(2) |  
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     | ムサシアブミの葉 |  
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     | ムサシアブミの全体 |  
     
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